「救いの火~ブラノスフとの出会い」

 私の記憶は無かった。
 気付いたときにはソファーに寝かされていた。救いの火のかがる暖炉が目の前にあった。
 体の痛みが再び私を眠りに誘った。
 次に気が付いたときには空腹のあまり言葉も出せない状態だった。
 暫くして、赤毛の女性が様子を見に来た。
「あら、気が付いたわね。」
 ゆっくりと歩み寄ってきた。
「大丈夫ですか。」
「ああ。誰が手当てを・・・。」
「町の医師に頼んで治療してもらったの。本当に凍傷だけで済んだのが不思議ですよ。」
「・・・どのくらいたったんだ。俺が、此処に来てから。」
「あなたが見つけられたのが二日前。そして、その日のうちに此処へ連れられて来たのよ。」
「よく、見つけてくれたな。」
「それは、 ・・・それは狩りの人が、 ・・・よく彼に撃たれなかったわね。彼はいい腕してるから。」
 彼女の声からすると21、 2くらいだろうか。
話し方も何か変わっている。


そうだ。
私ははるか上空に居た。
空中要塞で極東からイーロに戻る最中だった・・・
その途中スヴェトによる襲撃を受け、旗艦ウラヌスを失った。
退艦の際爆風で弾き飛ばされ
落下傘を開いた記憶もなく、いまここに居る・・・



 ふと、暖炉の上のポートレートに気が付いた。
彼女の両親だろか・・・、
思わず、「あの写真は、」と、それを指差した。
「ああ、あの人達は・・、前にこの家に住んでいた人です。」
「何故、そのまま置いてあるんだい。先人のを。」
「父の親友なんです。」
ふうん、何か分からないが不思議な女性だ。
「あの、君の名前は・・・」
「え、ブラノスフです。」
「ブラノスフ・・・。 どこかで聞いた事が。」
「ええ、地名です。」
「ああそうか。で名は。」
「名、て・・・、」
「えつ、名が無いのか・・」
「私は今まで、ブラノスフと言う名前でしか呼ばれてなかったから。」
「単名か・・・・」
「ねえ、あなたの名前は。」
「シダン。シダン・バフルーシン」
「いい名前ね。シダン・カモフみたいで。」
「あの人の作品は個人的に好きだけど・・・」
「私も。そこの本棚にも何冊か入っているわ。」
「でブラノスフはその名前を気にしているのか。」

「あっ、でも、あの写真の女性の名前がとても気に入っているんです。」
「リーヤさんと云うんですが、真似て使わせてもらってるんですよ。・・・レイーヤって。」
「リーヤ、レイーヤ。確かにいい名だ。」

何か気が引けるような気がする。
彼女は喜んだのか少し笑顔を見せていた。
そのあとすぐ隅の部屋に消えていった。
十分ほどして彼女がミルク粥を持ってきてくれた。


原作:1993年頃
編集:2007/02/18