公園の食肉祭 夕方、犬の散歩がてら近くの公園に行った。 と、云うより犬に引かれるままそこへ入った。 犬には名前を付けていないが、親はゴン、姉はパブロフ、そう呼んでいるシェパードだ。 私はその公園に入った時から、圧迫を感じる。何をしていても落ちつかない。 犬の方はと云うと、いたって落ちついている。シッポを振り回している位だ。 私だけがその空気に馴染めない。風がないから・・・ 時の流れも減速した。 陽はまだビルディングの間に浮いている。  すると、何処からとなく女が一人公園の中に入って来た。そして三つ隣のベンチに座っ た。十七、八位で眼鏡を掛けていた。  時々こちらを窺っている。  犬の鎖を外しておいたため、その女の方へ行ってしまった。人懐っこい為か、えらく甘 えている。そして、すぐに戻って来る。犬は女に好意的にするが、私はそうではない。恐 怖すら感じる。 今一度犬が女の所へ行った時。女がに何かを話した。 犬が戻って来ると 「お兄さん。待ってるよ」 犬が彼女が話したとも取れる言葉を話す。 時の流れが急激に加速する。 浮かんでいたはずの太陽はもう逃げ去った。 それとともに体内の無いはずの液体が凍りつく。  急いで逃げようとしたが出口が見当たらない。 ・・・幽閉された!!  「兄さん、おぼえていてくれた?なかなか来てくれないから様子を見に来たの。あの約 束。今でも愛してるよ。」  「あれは、もう終わった昔の話だろ?」「なんでいまさら。」  ひきつりながら、女を拒絶しようとする。  「ずっと、あの日が忘れられない。」  「いやだ。もういやだ。あんな思いをするのは。」 「ねぇ、今日かわ私たち一緒よね。」 「いやだ。やめてくれ!!」 女に背を向け逃げ出そうとしたが、喉に牙を剥いて飛び掛かる犬がいた。 「私たちはあの時・・・、ずっと一人でさみしかった。」 94/9/1